活動報告

相馬市教育委員会で「RSノートづくり」の研修を行いました

教育のための科学研究所では、今年度からRST受検後に返されるフィードバックコメントが一新されたことを受け、リーディングスキルと学力を伸ばしていくための「RSノートづくり」を、受検した自治体や学校にご紹介しています。

今回は、6月28日(水)、第2回相馬市公立学校研究指導員会において、当研究所の上席研究員 目黒朋子 が「RSノートの活用方法 ~受検結果を個別最適な学びにつなげる~」と題し、「RSノートづくり」についての研修を行いました。

※「RSノートづくり」についてはこちらを参照

 その後、相馬市立桜丘小学校の加藤政記教頭より、「読むために書く活動の充実とRSノートへの挑戦 ~家庭学習という作業からの脱却~」と題したお話がありました。
桜丘小学校での教育は、一つひとつがRSを意識して行われており、授業はもちろんのこと、子どもたちのプリントやテストに対しても先生方は常にRSの視点でコメントを返しています。RSが文化として根付いている学校と言えるでしょう。
さらに、桜丘小学校では、家庭学習の「さくらっこ自学メニュー」をRSの視点で見なおし、RST受検後すぐに「RSノート」を実施できるよう準備を進めているとのことでした。

 

研修を受講した先生方からの感想は以下の通りです。

〇RSノートの演習を通して、相馬市が今年度重点としている家庭学習の「5分復習・1分予習」と「RSノート」を関連づけて実施できるのではないかと思った。

〇RSノートをまずやってみようと思った。その前に、フィードバックコメントをしっかり読み、子どもたちの実態を確認していきたい。「ちりも積もれば山となる」の気持ちでやっていきたい。

〇本校では、朝学習に「RSタイム」を設定し、家庭学習は「家庭学習の手引き」で示している。しかし、子どもたちは与えられるままに取り組んでいるだけで、自ら学ぶ意識や方法をもっていない。RSノートを用いて、RSTの受検結果を個別最適な学びにつなげることで、教師が提示しなくても自ら学ぶ子どもたちに育成できるのではないかと思った。他の教員の協力を得ながら自校化を図っていきたい。

〇教員が子どもたちの結果を把握するだけでなく、結果をどう生かすかについて、RSノート作成を通して、個への指導方法や視点を知ることができ、良かった。教科書の読み取り方は、今後も解像度高く行っていきたいと感じた。

〇RSTの結果を学校全体としての授業改善に生かすことはしてきたが、「個別最適な指導」には活用できていなかった。学校としてすぐに取り組んでいきたい。

〇目黒朋子先生のRSノートの取組についてのお話をうかがい、おもしろい取組だと思った。授業では、日々RSの視点で授業を行っているが、それだけでは足りず、家庭学習でもRS向上に向けて何か取り組めないかと思っていたので、ぜひやってみたいと思った。

〇RSノートの有効性が分かった。自校化していくために、予習・復習とどうつなげるのかを学校で話し合っていきたい。桜丘小学校のように、自学メニューとつなげていきたい。 

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板橋区でRSTの結果の活用方法と「RSノート」の指導をおこないました

RSTでは、2023年度、評価とコメントを一新しました。(能力値の考え方は変わりません。)特に注目していただきたいのが「コメント」です。それぞれの受検者が「今日からどんなことに取り組めばよいか」が具体的に書かれています。

来年、再来年とリーディングスキルと学力を伸ばしていくための「RSノートづくり」を、受検した自治体や学校にご紹介しています。今回は板橋区の研究主任の皆さんを対象に、研修を行いました。

 RSTを受検すると、RSTの6つの項目に関するコメントが受検者にフィードバックされます。学校でも、その内容を把握することができます。このコメントを使って、受検した児童生徒がRSノートを作ります。

まず、最初の方のページにRSTの6つの項目に関するコメントを糊で貼ります。これが、診断に基づく「それぞれの児童生徒が取り組むとよいこと」です。1日に6つの項目をすべてやろうとしては大変です。月曜日は係り受け解析と照応解決、火曜日は同義文判定、のように曜日ごとに取り組むことを決めて5日で6項目を満遍なくやるのもよいでしょう。あるいは、まずは係り受け解析のコメントに全員で取り組み、それができるようになってからは、曜日ごとに1つずつする、というのでもよいでしょう。学校やクラスの実態に合わせながら、1年間をかけて、すべて「できるようになる」ことを目指します。

たとえば、係り受け解析(DEP)や照応解決(ANA)で課題があるときには、音読と視写に取り組みましょう、というコメントがつきます。どんなやり方で取り組むかは、診断結果によって変わります。ただし、かかる時間は5分程度です。

この日は、先生方に持参の教科書を使って、1週間分のRSノートを作ってもらいました。小学校では全教科を担任の先生が教えますが、中学以上はそうではありません。他の科目の教科書を視写してみて、「こんなに難しいの?」と驚かれる方が少なくありませんでした。RSノートを初めて体験してみての、率直な感想が交わされ、多くの質問がありました。

「(デジタル化が進んだ今でも)音読と視写ですか?」「中学生に音読ですか?」との質問がありました。

「今だからこそ」と私たちは考えています。

デジタル化が進んだことによって、家庭では本と新聞が消えました。また同じテレビ番組を家族で見ることも減りました。子どもたちが確実に手に入れることができる字が書いてある文書は、教科書だけ、という家庭も少なくありません。子どもたちが、説明文の書かれ方や読み方に慣れるためにも、各種の教科書を音読し、言葉や言い回しに慣れてほしいのです。その力が、先生が授業中にする説明を「耳で聞いて理解できる」ことにつながります。

また、小学校に比べて中学校の教科書は一気に抽象度が上がることが私たちの研究からわかっています。小学校の国語の教科書を音読できたからといって、中学校の地理の教科書もすらすら音読できるとは限りません。ぜひ、中学生にも高校生にも音読を勧めてください。

かつての学校のように、全員が同じ教科の同じ箇所を音読・視写するのではなく、それぞれの得意不得意に合わせて、様々な教科の教科書を音読・視写するとよいでしょう。社会科と理科、国語と算数・数学では、言葉も言い回しも違うからです。

「数学の教科書を音読して意味があるんですか?」との質問もありました。

音読させてみると、中学校や高校の数学の記号を正しく読めない生徒が少なくないことに気づくでしょう。数学の式を正しく読めないということは、先生が授業中に口頭でする説明を聞いても、頭の中で式につながっていない、ということになります。

「担当以外の科目をやってきたときに、どう指導してよいかわからない」との声もありました。

RSノートは、子どもたちが自己調整能力を身に付けるための自学自習用のノートです。指導しなくては、と身構えるのではなく、励ましてあげてください。惰性でやっている雰囲気が出たら「理科にも挑戦してみよう」「がんばってよく身に付いたね。次のコメントに進んでみよう」など、挑戦を促してください。質問があったら、「数学の先生に質問してみるといいよ!」と明るく送り出してあげてください。

「RSノートをチェックすることで、教員の多忙に拍車がかかるのでは?」とのご懸念もありました。

実は、教員の多忙の原因の大きな部分は、児童生徒が説明文を読み慣れていないことにまつわることが少なくありません。

昭和の時代であれば、「おたより」で持ち物を指定したり、行事の集合場所・集合時間を指定しておけば、ほとんどの子がそのように行動してくれました。「時間割」を渡したにもかかわらず「明日は何をもってくればいいですか」と真顔で聞くような生徒は、いなかったでしょう。高学年になれば多くの子がHBでノートを取れました。だからこそ、45人学級でも学級運営が成り立っていたともいえます。子どもたちを取り巻く環境が激変する中、徐々に、説明が伝わる子とそうでない子の差が開き、教員の多忙に拍車をかけた面があります。リーディングスキル向上に自治体と学校全体で取り組んでいるところでは、(1)中学生全員が50分の授業に集中し、ノートを書くことができている、(2)授業が成立するようになった、(3)「おたより」を読めるようになり、明日の準備ができる子が増えた、などの報告が相次いでいます。RSノートをすることで、それだけの改善が見込めるのであれば、試してみる価値はあるのではないでしょうか。

※音読と視写以外にはどんなコメントがついているかは、RSTを受検して結果をダウンロードしたときについてくる5段階評価コメント一覧のPDFをご覧ください。

 

 

 

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富山県立山町教育委員会で講話を行いました

12月2日(金)に立山町教育委員会主催の「読み解く力」向上研究会が立山町立雄山中学校を会場として開催され、当研究所上席研究員の目黒朋子が講話を行いました。


立山町では、今年度から「『読解力』向上3か年プログラム」を開始し、児童・生徒の読解力の向上に取り組んでいます。

今回の「読み解く力」向上委員会では、まず雄山中学校の二人の先生による、国語科3年生の公開授業が行われました。
単元名は、「自らの考えを-対象を評価し、多様性の中で自分の考えを確立する-」です。
松原仁著「人間と人工知能と創造性」と羽生善治著「人工知能との未来」の二つの論説文を題材として、これらの論説を三つ観点から読み比べ「ワールドカフェ方式」の対話手法を用いて、自分の考え(班の考え)について根拠を基に伝え合うという学習活動です。
学習指導要領の「精査・解釈」に相当する「批判的な読み」を実践する非常に意欲的な授業でした。

その後、目黒から「リーディングスキルを活用した授業づくり~教科書を読み解く~」と題して、RSの6分野7項目をどのように授業に落とし込んでいくかについて話をいたしました。
ワールドカフェ方式の授業では、記録者の書くスピードが「話すこと」に追い付かず、スムーズな話し合いが困難な場面も見受けられたので、共書き(聴写・視写)についても話をいたしました。

11/23の活動報告記事 に当研究所所長の新井紀子が書いたように、意欲的・発展的な授業でなくても、リーディングスキルは、工夫によって上げることができます。頑張って計画した特別な授業より、むしろ日々の「ふつうの授業」が大切です。

例えば、今回の授業で使用した生徒のワークシートを見てみましょう。

Q:人間がすべきことはどんなことか。

A:今後どのように対応するかを考えていくこと。

この生徒の答えは、文になっているでしょうか。教科書の本文では主語や目的語が省略されていることがあります(ゼロ照応)。省略されている本文のまま書き抜きすると「何が何に」の部分が抜け落ちてしまいます。
この答えもその一つです。常にアウトプットした文が文として成り立っているかを考えさせる(係り受け解析)、他の人の文と自分の文が同じ意味なのかを考えさせる(同義文判定)など、小さな積み重ねを大切に指導していくことが重要です。

さらに、ワークシートの質問文にも工夫が必要です。

Q:人工知能をうまく活用するとはどういうことか。

この質問文に相当する段落には、「また」という接続詞が使われているので、RSの高い生徒は、「また」を並列ととらえて理由を2つ書き表すことができますが、RSの低い生徒は、「また」を読み取ることができず理由を1つしか書けません。
このような場合には、質問文の中に「人工知能をうまく活用するとはどういうことか2つ書きなさい。」など、いくつ答えればよいのかわかるようにして、RSが低い生徒でも自力で解決できるような工夫が必要です。

また、授業をデザインする時には、生徒の実態を把握しながら、学習活動の中で「間違えた→なぜ間違えた?→こうすれば間違えない」というサイクルを作り出すことも必要です。

前述の「また」の場合で考えてみると、『理由を1つしか書けなかった→接続詞「また」を読み飛ばした。「また」が並列の記述であることが分からなかった→今回、「また」は並列の記述であることが分かったので、次回から「また」に印を付けるなどして、読み間違いに気をつける』というサイクルになります。

このようなサイクルを毎時間くり返すことにより、生徒は読解のための正しいスキルが身につけることができ、さらにはいろいろな場面でそれを活用することができるようになります。

時間はかかるかもしれませんが、学校全体で(市町村全体で)RSを意識した授業を毎時間行っていくことが読解力向上の一番の近道となるでしょう。

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新潟県燕市で講演・講評を行いました。

新潟県燕市では、令和3年度から市内全小中学校において、汎用的基礎読解力の診断のためにRSTを導入しています。

2022年11月22日に燕市教育委員会主催の「令和4年度 読解力育成プロジェクト全体研修会」が燕市立燕西小学校を会場として開催されました。まず、開催校である燕西小学校の6年生の算数において、特に「イメージ同定」を意識した授業として、「同じ形ってどんな形?~暮らしに生かす拡大図と縮図~(全 12 時間)」の仕上げに相当する発展的な授業が展開されました。市内すべての小中学校から多くの先生、教育長はじめ教育委員会の指導主事が見守る中、体育館で授業が始まりました。

燕西小学校では、毎年、小1~小6が班をつくり、遠足をします。同じ起点と終点ですが3つコースがあります。そのコースのうち「田んぼコースが一番長いらしい」ということを児童は実感(時間がかかる、疲れる)などから感じています。それが本当かどうかを地図の縮尺を用いて確認し、「どれだけの道のりの差」があるかを数値として確認するという大変意欲的な内容でした。

児童の「実感」とこれまで学んできた「縮尺」をつなげることにより、「縮尺で考えることの良さ」を実感させるという意味では、「考える力を育てる」「算数・数学の考え方の良さを実感する」という学習指導要領の目的に合致した、内容の濃い授業です。ただ、イメージ同定と推論の力はもちろんのこと、作業に集中力が求められる授業であることに注意が必要です。

1.地図上のジグザグの道を線分に区切り、コンパスで取り、直線上に移すには、コンパスの使い方の習熟が必要。

2.「どこまでは測り済みで、どれはまだ測っていないか」をチェックする注意深さが必要。

3.地図が1万9800分の1の地図だったため、「本当の長さ」を計算するには3桁以上の掛け算の能力が必要。(学習指導要領外)

3については最初から電卓またはタブレット上の電卓を使うか、2万分の1の地図を用いることで3桁どうしの掛け算を回避できるようにする工夫があるとよいでしょう。

さて、講演では「リーディングスキルに着目した授業づくり」というお話をさせていただきました。

「すべての児童(生徒)にとって、すばらしい授業」というのは存在しません。たとえば、RSTの能力値が4~5に固まっているような学校では、上記のような授業はまさに児童にとって「算数の良さ」を実感できる授業になることでしょう。一方、RSTの能力値が2.5を平均として分布しているような場合は十分な効果が得られないかもしれません。

リーディングスキルを「伸ばす授業」というのは、能力値が1の子を2に、2の子を3に、3の子を4に、4の子を5に上げ、平均を上げつつ分散を小さくする授業です。自分のクラスの子のRSTの能力値を把握した上で、「全員が手を挙げられる問題を3つ」「半数が手を挙げられる問題を2つ」「能力値が一番高い層が手を挙げられる問題を1つ」準備し、一斉授業の中で、それぞれが確実にRSを昨日より今日、今日より明日、少しずつ上がるような授業を目指すのが、(地味ではあるが)最も効果があるのではないか、というお話をしました。

※「問題」というのは、根拠をもって解決されるべき問題を意味します。(例:「軽井沢の6月の平均気温は何度ですか?」(雨温図を読む、イメージ同定)、「ゆうなさんは『土地の高いところでは、気温が低くなる』と言っています。どのグラフを見てそう言っているのでしょう?」(雨温図を読む、イメージ同定)) 「感じたこと・思ったことの表出」は上記の「問題の数」とは別でお考えください。

意欲的・発展的な授業でなくても、リーディングスキルは、工夫によって上げることができます。頑張って計画した特別な授業より、むしろ日々の「ふつうの授業」が大切です。教科書見開き2ページの本文・資料を最大限活用しましょう。文の基本構造の把握が弱い子には、本文の構造の確認を(文法的に、ではなく自然に)確認してください。DEP、ANAはできているが推論が弱い子には「〇行目に・・・と書いてあるね。なぜだろう」のように根拠を聞きましょう。その際、根拠としてまずは教科書に書いてあることを挙げられるようにしたいですね。(もちろん、児童の実感や経験とつなぐ活動も大切ですが。)そのような実践ができている学級では、「今日学習する教科書のページ」を全員が開いており、先生が質問をすると、教科書から答えを探そうとするので、どれだけ日々の実践ができているかが一目でわかります。

RSTを導入していらっしゃる他の自治体でもご参考になれば幸いです。

 

 

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大阪府和泉市で講演を行いました

 

10月27日(木)に大阪府和泉市で開催された「令和4年度 第2回 リーディングスキルテスト活用研修会」において、当研究所主席研究員の菅原真悟が研修会講師を務めました。
研修会はオンラインで開催され、市内の小中学校の先生方の参加がありました。

和泉市は今年度、中学生と先生方がRSTを受検し、その結果を分析・活用し、授業改善・学力向上をめざしています。

 研修会では、当研究所代表理事・所長の新井紀子の『AIに負けない子どもを育てる』の10章「大人の読解力は上がらないのか?」をもとに、読解力を身に着けることの重要性について解説を行いました。

 そのうえで、今回のRST受検結果の分析をもとに、生徒が抱えている課題について説明し、生徒の読解力を高めるために、教員がどのような点に注意して教科書を読んで授業を行えばよいのかを解説しました。

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